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2023.5/4~6 三人展作品 < morendo ~誰が刈った、誰かが見ている~ >

morendo / 絶え入るように

 

〜誰が伐った、誰かが見ている〜

 

 

よく晴れた日

桜の木は小鳥の集会場

どんなに静かに近づいても怖がらせてしまう

私という人間の荒んだ気配を消すことができない

 

名も知らぬ虫たちは

桜の幹に守られ安心顔

どんなに優しく触れても潰してしまうほどの小さな生命(いのち)

触れることさえできない私という人間、誤魔化すこともできない

 

色とりどりの草花は

桜の根元を守るよに、手を繋ぐ

どんなにゆっくり歩いても、首を折ってしまう 

私という人間は靴を履かないと出かけることもできない

 

 

いつもと変わらぬ晴れた朝

やけに空が広かった

(今日は小鳥、どこ行った?)

静寂の中、足元でかすかな声がした

「誰かが伐った」

その声はつゆ草だった

「誰かが伐った」

その声はたんぽぽ

「誰かが、桜を伐ったんだ」

そう言い残すとわたぼうしが舞った

風もない空に高く高く舞い上がっていった

桜を失った空は広く、明るくて、薄い青い色

 

(・・・人間だね・・ごめん。本当に。いつもごめん・・)

心の奥から絞り出したその声に、何の力もないことを知っている 

私という人間はわかっていても言わずにいられない

 

 

 

三日後 曇りの日

私たち人間は根こそぎ土を掘り起こしていた

やわらかなふわふわの土にまみれ、切り刻まれたつゆ草たちが一斉にこっちを見ている

(・・・・。)

私という人間は言葉も出ないくせに涙は抑え込む 

目を見開き、鼻をすすり、うつむきながら、駅へ向かう

私はどこへ行くというのだ

 

帰り道 昼間の雲は晴れていた

土の香り漂う桜と草花と虫たちの墓場を歩く

満天の星空

明日は新月

私は何を祈るのだろうか

 

 

三ヶ月後 晴れの日

桜と草花と虫たちの墓場に町ができた

土深く掘りライフラインを埋めた

つゆ草たちの上にはアスファルトを敷き詰めた

残る土には雑草が生えてこないようシートもかけた

人間はとことんやる

 

私という人間も、そうやってこうやってどこかの誰かがつくってくれた町に住んでいる

 

「そんなことを言い出したらキリがない」誰かが言うだろう

・・・だから書く

 

私という人間にできること

絶え入るような瞬間に

言葉なき生命に頭を下げる

ごめんなさい

ありがとう

 

 

 

半年後 雨の日

敷き詰めたはずのアスファルトの隙間に

一輪のつゆ草が咲いた

びっくりして足を止めた私につゆ草が教えてくれる

「後ろ見て」

急いで振り向く

シートの小さな小さな穴から何とか顔出していたのは、たんぽぽ

「僕、明日咲くよ!」

 

ありがとう

ありがとう

ありがとう。

 

絶え入るような瞬間に種(しゅ)を残し続けてきた自然は、完全。

 

私たちは自然の一部に入れてもらえているのだろうか・・・。

 

 

 

                         まはる 

 


額(さくら)

手漉き和紙
約  58 × 58 (cm)
©️まはる 2023

 

販売価格(税込)   88,000 ≦ 165,000 yen